戦場からの手紙
語り手(男):親愛なる我が妻へ
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語り手(男):元気にしているだろうか?隣国との戦争が始まって、一ヶ月がたとうとしている。
語り手(男):僕が徴兵されて、君には心配と苦労をかけていると思う。手紙もなかなか出せずにすまない。
語り手(男):僕は元気だ。徴兵されたが、僕が前線に出ることはなく、いまは兵糧の警備が主な仕事だ。
語り手(男):たまに腹を空かせた兵士たちがつまみ食いに来るだけで、ここは平和そのものに見える。
語り手(男):だから、安心して欲しい。戦争が終わればすぐに君のもとへ帰れるから。それまでは苦労をかけると思うけど、どうか、耐えてくれ。
語り手(男):また手紙を書くよ。君は体が弱いんだから、僕がいないからってあまり無理をしないように。
語り手(男):愛しているよ、君の夫より。
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語り手(男):追伸
語り手(男):君も知っている僕の友人のカイは、前線に送られたけれど元気にしている。実は、あいつがつまみ食いに来る兵士のひとりなんだ。
語り手(男):あいつは強いから、くたばったりはしないと思う。ただ、あいつは字が書けないから、カイの両親に、彼は元気にしていると伝えてくれ。じゃあ、また。
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語り手(男):「あっ、カイ!こら、勝手に覗くな!っうるさい、茶化すな!お前今度茶化したらつまみ食い!上官に報告するからな!」
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語り手(女):親愛なる私の旦那さまへ
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語り手(女):手紙ありがとう。私は元気よ。貴方からの手紙が来るのを首をながーくして随分待ったわ。貴方から手紙が届いた時は跳び跳ねて喜んでしまうくらいだったのよ。貴方が無事でいること、心から嬉しいわ。
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語り手(女):つまみ食いにくる兵士、と聞いてカイが思い浮かんだのだけど、やっぱり彼なのね。貴方に叱られるカイを想像したら、笑ってしまったわ。でも少しは多目にみてあげてね。きっと彼は、後方とはいえ、貴方のことが心配なのよ。つまみ食いは多分、ついでじゃないかしら。カイの両親にも、必ず彼が元気だと伝えるから。まかせて!
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語り手(女):体が弱い私を心配してくれてありがとう。でも安心してちょうだい。最近体の調子が良くて、畑仕事もひとりで出来るの。勿論無理なんかしていないわ。だから、私を心配するよりも先ず貴方自身のことを考えてあげてね。次の手紙も楽しみに、待っているわ。
語り手(女):貴方を愛する妻より
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語り手(女):追伸
語り手(女):私に宛てた貴方の字がなんだか愛しくて、何度も指先で撫でていたら、まるで貴方が傍にいるみたいで安心するの。おかしいかしら。それと、貴方とこうして手紙のやりとりをするなんて初めてだから、緊張してるわ。もし変な文章があっても多目に見てね。それじゃあ、次の手紙も楽しみに待っているわ。
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語り手(女):「あの人の字ってクセがあるのね。字を書くの嫌がってたのはそのせいかしら。可愛い。……早く帰ってきてね」
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語り手(男):親愛なる我が妻へ
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語り手(男):またしばらく手紙が出せなくてすまない。僕は元気だよ。相変わらず兵糧の警備をしている。
語り手(男):君からの手紙、読んだよ。元気そうで安心した。
語り手(男):何度も読み返しているせいでもうぼろぼろだ。早く君に会いたい。
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語り手(男):前線に行っていた友人のカイが、手柄を立てたよ。敵の将軍のひとりを討ち取ったんだ。彼も、まわりの兵士もお祭り騒ぎだよ。確かに凄い事だ。敵に勝てば、戦争も早く終わる。早く終われば、君のもとへ帰れる。
語り手(男):でも正直、僕はカイの笑顔が怖かった。喜ぶまわりの兵士の姿も恐ろしかった。
語り手(男):人を殺した。殺したのに、なんで笑っていられるんだ?僕にはわからない。
語り手(男):まわりの仲間が、みな、化け物に見えてしまったんだ。
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語り手(男):僕はその時、ようやく理解した。
語り手(男):ここは戦場だ。戦場なんだ。
語り手(男):平和だったから忘れていた。
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語り手(男):いつか僕は、人を殺して、笑っているかもしれない。
語り手(男):あるいは、生首だけになっているかもしれない。
語り手(男):情けない男だ。いや、すまない。不安にさせるようなことを書いてしまった。
語り手(男):早く戦争が終わるよう、祈っていてくれ。愛しているよ、君の夫より。
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語り手(男):追伸
語り手(男):君の手料理が早く食べたい。帰ったら、僕の好物をたくさん作ってくれ。わがままに聞こえるかもしれないけど、ここの食事は不味すぎるんだ。
語り手(男):お願いするよ。
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