それまで、お静かに。(15分)
■■■
和室の囲炉裏に鍋が掛けられている。
やがて客席への入場が落ち着き、襖を開けて和装の女が入場。
女 失礼致します。
女、客席の向かいに置かれた座布団に座る。
客席に語り掛ける。
女 本日はお越し頂き有難う御座います。
女、囲炉裏に乗った鍋を手で示す。
女 こちら、既に食された方はおられますか?
女、客席の様子を見る。
女 もしおられても、効果が分かるまで時間が掛かります。どうかそのまま。
女、一礼。
女 音・光・振動などを発する機器をお持ちでしたら電源をお切りください。
また、ここからは皆様同士でのお話し合いもお控えください。
女、左手の人差し指を自身の唇に当てる。
女 最期に、私たちの村のお話を致します。
ご存じだからこそ今こうやってお集まり頂いているとはいえ、しっかりお伝えするのが誠
意かと。暫し、お耳をお貸しください。
■■■
和室の外の空間から声が聴こえてくる。
① 誰か…! うちの人が…! うちの人が…!
② どうした!?
③ あんた血だらけでねぇの…!?
① これは…、うちの人の…!
② あんたんとこの人がどうなったんだ…?
① 食われた…。
③ まさか、また!
① 食われちまったんだ…!
③ 落ち着け…!
■■■
女 出会えば必ず食われて命を落とす。その正体が何なのか、誰にも分かりませんでした。
■■■
② 本家さん、話が違うでねぇの。
● 何でこうなった…。
③ あの人んとこは他より多くお布施してたってのに。これじゃ他の家だって無事じゃねぇっ
て。
● 俺んとこいていいから。表に出るのはしばらく控えとけ。
② しばらくったって、いつまで?
③ 待ってたら終わるんけ? 死ぬまでそんな事してらんねぇ。
● とにかく待て。
■■■
女 都会から離れた山間の村。
此処で生まれれば此処で育って此処で死んでいく。より豊かな場所に何があるのか知りも
しなければ憧れる事もない。社会通念や常識が都会とは異なる閉鎖された世界。その村に
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